【文例あり】『比喩表現辞典』に学ぶ比喩表現技法9種類
今回の参考文献です。
比喩表現の実例8201例が記載された辞典です。
芥川龍之介や泉鏡花など文例の著者は古めですが(赤川次郎や吉本ばななもいます)、著名な作家であることは間違いないので、比喩表現のコツを掴みたい──という方は手に取るのも良いかなと。
比喩とはどういう意味か
「比喩」は、あるものをそれに似た他のものに喩える修辞法です。文字通り「比べて喩える」わけですね。
パラソルを杖のように地面に立てたまま、真直ぐなスカートを着けた軀が棒みたいだった
安岡章太郎『海辺の光景』
たとえば、こちらの比喩表現では「パラソル」を「杖」に、「軀」を「棒」にという具合に、類似点を持つ他のものに喩えたのでしょう。
一方で、元よりあった両者の類似性を活かした比喩表現──というより、作者が新たに類似を創造したと云えるような比喩も存在します。
小さくつぼんだ唇はまことに美しい蛭の輪のように滑らかで
川端康成『雪国』
なまじろく、うどんのような捩れたかおをしながら、しずかに、ふふ……と微笑った
室生犀星『愛猫抄』
「唇」から「蛭」、「かお」から「うどん」を感じ取れる人は極めて少数派であると思われますゆえ(笑)
こういう物の見方それ自体を開拓することもまた比喩の楽しみの一つですね。
比喩表現技法について学ぶメリット
たとえばあなたが対象Aの正式名称を知らない場合、「何かと比べて喩える能力」がないと他者にうまく伝えることができません。「うーん、正式名称知らないしなぁ、仕方ないあきらめるか」となってしまいます。
例を挙げてみましょう。下の画像をご覧ください。
ペットボトルの赤線で囲んだ部分を他者に伝えるとき何と表現しますか?
ペットボトルの「首」って言いません? 太い方をペットボトルの胴体に見立てているわけですね(まあ、これを読んでいる人の中にはペットボトルの部位名称に詳しいガチ勢もいるかもしれませんが)。
このように、言葉を上手く使って誰かに何かを伝えたいとき比喩は必須です。
比喩表現技法について学んでおけば、未知の対象に直面しても類似性を見出し、他者に説明することができます。これが比喩表現技法について学ぶメリットです。
修辞学における比喩法の種類一覧
修辞学における比喩法の種類は、以下の通りです。
- 直喩
- 隠喩
- 諷喩
- 活喩
- 提喩
- 換喩
- 声喩
- 引喩
- 転喩
- 張喩
- 濫喩
- 字喩
- 詞喩
- 類喩
今回は、《直喩》《隠喩》《諷喩》《活喩》《声喩》《提喩》《換喩》の七種類に《擬人法》《擬物法》を加えた計九種類を解説します。
直喩(明喩)・隠喩(暗喩)とは
《直喩》と《隠喩》は、その性質上対比して考えると理解が早いです。両者の違いは簡単に云うとこんな感じ。
- 直喩=比喩を意識する言葉を明示する
- 隠喩=比喩を意識する言葉を明示しない
「比喩を意識する言葉」とは「まるで」「ちょうど」「ごとし」などを指します。
より詳しい解説は下記リンク先へどうぞ~。
諷喩とは
《諷喩》は、喩えるものだけを明示し、喩えられているものをそこからそれとなくイメージさせるところに特徴があります。
- 猿も木から落ちる
- 弘法にも筆の誤り
こういった諺も原理としては諷喩に当てはまります。
諷喩の具体例を紹介
初めいたわり合っていた彼らは、お互いの傷をむしり合う荒々しさにもかり立てられた
佐多稲子『くれない』
先行の文脈を読めば、これが取っ組み合いの夫婦喧嘩ではなく、恨みを込めた文句をぶつけ合うという意味だと察しがつくようになっています。
以上の三類が比喩の基本形です。類似に基づくイメージの[置換]という典型の比喩はこれに尽きます。
活喩とは
《活喩》は、無生物を命のあるものとして扱う、あるいは非情物を有情化する修辞法です。
活喩と擬人法の違いについては、簡単に云うとこんな感じです。
- 活喩=生命のないものを生命のあるものに見立てて表現する
- 擬人法=人間以外のものを人間に見立てて表現する
より詳しい解説は、下記リンク先へどうぞ~。
擬物法とは
《擬物法》は、擬人法とは逆に人間を物めかして表現する修辞法です。
擬物法の具体例を紹介
お茶も入れられないほど、枯れ落ちてしまっているはずはない。
高橋三千綱『天使を誘惑』
こちらでは母親を植物に喩えているわけですね。
声喩とは
《声喩》は、オノマトペを使って感覚的に伝えようとする修辞法です。
より詳しい解説については下記リンク先からどうぞ。
提喩・換喩とは
《提喩》と《換喩》は、その性質上対比して考えると理解が早いです。両者の違いは簡単に云うとこんな感じ。
- 提喩=包摂関係にある二者の置き換えを意図する修辞法
- 換喩=包摂関係にない二者の置き換えを意図する修辞法
キーワードは「包摂関係」であることがわかりますね。
より詳しい解説については下記リンク先からどうぞ。
まとめ:『比喩表現辞典』に学ぶ比喩表現技法9種類
まとめると、『比喩表現辞典』に学ぶ比喩表現技法9種類は以下の通りです。
- 直喩:喩えるものと喩えられるものをはっきり区別し、比喩を意識することばを明示している。
- 隠喩:喩えるものと喩えられるものとをそれぞれ区別するが、「ようだ」「みたいだ」といった言葉は使わない。
- 諷喩:喩えるものだけを明示し、喩えられているものをそこからそれとなくイメージさせる。
- 活喩:無生物を命のあるものとして扱う、あるいは非情物を有情化する。
- 擬人法:人間以外のものを人間めかして表現する。
- 擬物法:擬人法とは逆に人間を物めかして表現する。
- 声喩:オノマトペを用いて感覚的に表現する。
- 提喩:全体と部分、主体と属性といった関係にある二者の置き換えを意図する。
- 換喩:包摂関係にない二者の置き換えを意図する。
比喩と云うと、日常会話では対象をわかりやすく伝える目的で使われることがほとんどですが、こと小説の世界では印象を深めるため、突飛なイメージを持ち込んで連想を楽しんでもらうためなど、遊戯的かつ技巧的な目的で用いられています。
中には比喩でしか伝えられないからこそ比喩たり得た、極めて創造的な比喩も存在することでしょう。
ではまた。